Saturday

110820



『朱花の月』の公開記念トークショーに行ってきました。
出演は河瀬直美監督をはじめ、樹木希林さんと吉岡幸雄さん。
とても濃密な時間を過ごすことができました。

まず何より感じたのは、河瀬監督の世界に対する絶対的な信頼で、
1000年前のものが今なお残っている奈良という場所だからこそ
感じることができる部分もあるのかもしれないけれど、
自分が生まれるはるか昔のことに思いをはせ、
それらと今生きる自分たちとのつながりに対してすごく意識的で、
そこに流れる時間の流れをどのようにして描き出すが今回の作品のテーマであったともいえる。
このような態度は、ちょうど最近インタビューを読んだ磯崎憲一郎とも
通ずる部分があるのではないかと思うけれど、
世界の中心に自分をすえるのではなくて、
その盤石さを肯定し、寄り添いながらやっていくことは、
作品をここではないどこかへと導く可能性を秘めているのではないか。
特に映画のエンディングロールに書かれているという
「名もなき無数の魂に捧ぐ」という言葉は、
今では震災のことを思い起こさずにはいられないけれど、
実はこの言葉は震災以前に書かれたもので、
歴史に名を残さなかったすべてのふつうの人たちに対しての
思いを伝えるためのものだそうだ。
震災に関してもショートフィルムのプロジェクトが進められてるようなのだけれど、
それに対する監督のコメントがとても印象的で、
芸術に関わるすべての人たちはそれを自分の問題として引き受けなくてはいけないのであり、
もしそうでなければ単なる偽善として片づけられてしまってもしかたないというもので、
その気持ちを「A Sense Of Home」」として、
故郷や家に対する想いをテーマにしているのが彼女らしいように思った。

また、製作時のエピソードもとてもおもしろくて、
役者さんを迎えるところからなんとなくもう映画の設定が意識されていて、
どこからが撮影がはじまっているのかわからないような感じで、
現実との境界を常に意識し、フィルムに写っている以外の世界を感じさせる河瀬監督らしい
手法だと思った。
他にも人としてよく知る人物を主役にすえていたり、
撮影スタッフに対して何かを強要しようとするのではなく、
あえてその人たちに考えさせて作っていくその手法は、
すべてを効率よくコントロールすることが能力だと思われることが多い中で、
このようなしなやかな態度で製作を行うことはとても難しいけれど、
だからこそ作品にとても細やかな表情を与えることができるのだと思う。

これまでの作品もそうだけれど、
彼女の撮るものには毎回大きな影響を受けているので、
今回も観るのがすごく楽しみだ。

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